腹部全体の疼痛/激痛
筆者の題名:受診理由としての腹部全体の痛み
🧠 D01 は腹部全体の痛みという受診理由だが、表示する米国の分布は腹痛の部位をまとめた集計である。 症状ノートの腹痛が部位・性状・緊急性を整理するのに対し、ここでは何を一緒に数えているかを先に確認する。
コードと分布の範囲は一致しない
| 分類の側 | 扱う範囲 |
|---|---|
| ICPC の D01 | 腹部全体の疼痛/激痛 |
| ICPC の D02 | 心窩部痛 |
| ICPC の D06 | その他の限局性腹痛 |
| 分布に使う米国の腹痛モジュール | 上記を区別しない腹痛の集計 |
このため、D01 のページに胆道・虫垂・尿路などの診断カテゴリが並んでも、「腹部全体の痛みがそれぞれの病気を示す」という意味にはならない。同じ集計を使う別の腹痛コードの表を、独立した研究として数えることもできない。
原因の名前が付かない受診も含む
診断欄の腹痛という症状カテゴリは、受診時に原因が特定されていない記録を含む。急性腹症の確定診断だけを集めた表ではなく、最終的な転帰や手術の必要性までこの分布から読み取ることはできない。
診療所の推定が抑制されていても、その場所に腹痛の患者や重篤疾患がいないとは言えない。救急外来の表を使って、空いている列を埋めることもしない。
多さと見逃しの損失を別に置く
腹部大動脈瘤破裂や異所性妊娠では、受診時の表にその診断が表示されるかどうかとは別に、循環状態や妊娠に関係する具体的な所見が問題になる12。ここに掲げる状態だけで、穿孔・腸管虚血・捻転などを含む急性腹症を網羅するわけではない。
見逃し時の損失が大きい状態
頻度の高さではなく、見逃したときの損害と判断までの猶予で選んだ項目です。確率は併記しません。対応は、各ガイドラインが明示している内容だけを書いています。
- 即時
新たな腹痛・背部痛、循環虚脱、意識消失のいずれかがあり、腹部大動脈瘤破裂が疑われる。既知の腹部大動脈瘤、60 歳超、喫煙歴、高血圧などがあれば特に注意する
腹部大動脈瘤破裂症候性・破裂性の腹部大動脈瘤を疑う場合は直ちに評価する。瘤を認める、または超音波が直ちにできない・診断できず疑いが残る場合は、直ちに血管専門診療へ相談する。
- 即時
妊娠初期の合併症が考えられる腹痛で、循環が不安定、または痛みや出血の程度に重大な懸念がある
破裂を含む異所性妊娠妊娠初期の重篤な出血救急外来へ直接紹介する。異所性妊娠は消化器・尿路の症状に似ることがあり、典型的な症状や既知の危険因子が揃うことを前提にしない。
- 即時
妊娠反応が陽性で、痛みと腹部圧痛の組み合わせ、骨盤圧痛、子宮頸部移動痛のいずれかがある
異所性妊娠妊娠初期の評価部門または時間外の婦人科診療へ直ちに紹介する。循環不安定や著しい痛み・出血があれば、救急外来への直接紹介の対象となる。
場ごとの事前分布
主な受診理由(RFV1)としてこの訴えが記録された受診の、第一診断(DIAG1)の分布です。診断は ICD-10-CM の 3 桁カテゴリで、受診時の記録です。95% 信頼区間を括弧に示します。順位は標本誤差で入れ替わりうるため、 点推定の大小だけで読まないでください。
この訴えは NCHS の受診理由分類では他の ICPC コード(D02・D06)と同じモジュールに 記録されます。区別せずに集計しているため、これらのコードの統計は重なっています。
pie showData title 救急外来:第一診断の内訳(%) "R10 Abdominal and pelvic pain" : 38.0 "R11 Nausea and vomiting" : 3.3 "K59 Other functional intestinal d…" : 2.9 "K57 Diverticular disease of intes…" : 2.8 "K52 Other and unspecified noninfe…" : 2.8 "その他(上位以外・抑制を含む)" : 50.3
救急外来(非加重 5,571 件)。提示基準を満たした上位の診断だけを描き、残りは「その他」にまとめています。
| 受診時診断(ICD-10-CM 3 桁) | 診療所(プライマリケア) | 診療所(専門科) | 救急外来 |
|---|---|---|---|
R10Abdominal and pelvic pain | 抑制 | 抑制 | 38.0%35.7–40.4 |
R11Nausea and vomiting | — | 抑制 | 3.3%2.7–4.0 |
K59Other functional intestinal disorders | 抑制 | 抑制 | 2.9%2.2–3.6 |
K57Diverticular disease of intestine | 抑制 | 抑制 | 2.8%2.2–3.4 |
K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis | 抑制 | — | 2.8%2.2–3.4 |
N39Other disorders of urinary system | — | — | 2.5%2.0–3.1 |
N20Calculus of kidney and ureter | — | — | 2.5%1.9–3.1 |
K80Cholelithiasis | 抑制 | — | 2.4%1.8–3.1 |
K35Acute appendicitis | — | — | 1.8%1.4–2.4 |
K29Gastritis and duodenitis | 抑制 | — | 1.8%1.4–2.3 |
| この訴えが記録された受診数(非加重) | 67 | 77 | 5,571 |
| 調査年 | 2018・2019 | 2018・2019 | 2019・2020・2021・2022 |
Tier A: 米国 NCHS の公開マイクロデータ(NAMCS・NHAMCS ED)を複合標本設計で集計。受診単位。 「—」はその場の上位の診断に入っていないこと、「抑制」は NCHS の提示基準を満たさないため値を表示しないことを表します。 標準誤差・信頼区間は、匿名化のためにマスクされた公開版の設計変数による推定です。
併せて記録された受診理由
この訴えが(5 枠のどこかに)記録された受診で、同時に記録された受診理由の上位です。記録されていないことは、陰性だったことを意味しません。記録枠・患者の自発的な訴え・記録者の選択に左右されるため、問診の優先順位として読まないでください。
救急外来
- RVC 1525Nausea23.4%(21.6–25.2)非加重 1,862 件
- R10Abdominal and pelvic pain29.8%(27.0–32.8)
- R11Nausea and vomiting9.0%(7.3–11.0)
- K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis5.3%(3.9–6.9)
- RVC 1530Vomiting23.2%(21.9–24.5)非加重 1,888 件
- R10Abdominal and pelvic pain26.5%(23.6–29.6)
- R11Nausea and vomiting15.4%(13.3–17.6)
- K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis5.5%(4.1–7.1)
- RVC 1595Diarrhea10.8%(9.8–11.9)非加重 895 件
- R10Abdominal and pelvic pain28.1%(24.2–32.2)
- K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis12.7%(10.0–15.8)
- R19Other symptoms and signs involving the digestive system and abdomen9.5%(7.0–12.6)
- RVC 1055Pain, specified site not referable to a specific body system6.3%(5.4–7.2)非加重 479 件
- R10Abdominal and pelvic pain30.0%(24.9–35.5)
- N20Calculus of kidney and ureter13.2%(9.2–18.0)
- N39Other disorders of urinary system4.2%(2.0–7.5)
この表が動く条件
上の分布を単独で一般化させないための節です。事前確率が大きく動く要因を挙げます。
- 痛みの部位と分類の粒度
- 米国側の腹痛モジュールは D01・D02・D06 に共有される。腹部全体の疼痛、心窩部痛、その他の限局性腹痛を分けた推定ではない。
- 年齢と妊娠
- 小児、高齢者、妊娠している人を同じ集団として扱うことには限界がある。この表は年齢や妊娠の有無で層別していない。
- 発症からの時間・既往
- 突然の痛みと反復する痛み、腹部手術歴や血管疾患のある人では、想定する集団が異なる。経過や既往を指定した分布ではない。
- 併せて記録された受診理由
- 嘔吐、悪心、下痢、発熱などが併記された受診を別に集計している。診断分布は主な受診理由、併記の集計は記録の 5 枠のどこかに腹痛がある受診を入口とする。腹痛だけの受診との比較ではなく、未記録の症状を陰性にもできない。
- 受診先と調査期間
- 紹介や直接受診の違いに加え、診療所と救急外来は調査期間も異なる。救急外来の分布だけで、診療所における原因の頻度を補わない。
他地域へ移すときの限界
- 米国の受診単位の分布であり、日本・ハンガリーへの移植性は未検証である。
- 腹痛の部位をまとめた受診理由分類を用いている。地域差を考える前に、比較相手の腹痛の定義と分母が一致するかを確認する必要がある。
- 妊娠初期や血管疾患の紹介に関する記述は英国の指針であり、各地域の専門診療への連絡経路を示すものではない。
参考文献・資料
- 1.Abdominal aortic aneurysm: diagnosis and management(National Institute for Health and Care Excellence・2020)勧告 1.1.7〜1.1.9 の本文を確認した。新たな腹痛・背部痛、循環虚脱または意識消失で腹部大動脈瘤破裂を考え、症候性・破裂性が疑われれば直ちにベッドサイド超音波を行う。瘤を認める場合、または超音波が直ちに利用できない・診断できず疑いが残る場合は、直ちに血管専門診療へ相談する。閲覧 2026-10-15
- 2.Ectopic pregnancy and miscarriage: diagnosis and initial management(National Institute for Health and Care Excellence・2026)2026 年 6 月更新版の勧告 1.4.1〜1.4.8 を本文で確認した。循環不安定または痛み・出血量に重大な懸念がある場合は救急外来へ直接紹介する。妊娠反応陽性で、痛みと腹部圧痛の組み合わせ、骨盤圧痛、子宮頸部移動痛のいずれかがあれば、直ちに妊娠初期の評価部門へ紹介する。異所性妊娠は非典型的な症状をとり、既知の危険因子がなくても除外できない。閲覧 2026-10-15