受診理由ノート一覧へ
D02ICPC-2 · 7.0公開済み

心窩部痛

筆者の題名:受診理由としての心窩部痛

D · 消化器
別名
みぞおちが痛い胃のあたりが痛むみぞおちの差し込み
症状ノート
心窩部痛

🧠 心窩部痛という受診理由は、前腸由来の臓器だけでなく胸部・循環器疾患の関連痛としても表現されうる主訴の記録であり、診断名そのものではない。臨床的な機序や性状ごとの鑑別の詳細は心窩部痛を参照。

主訴の記録と集計モジュール

受診理由としての心窩部痛は、患者が「みぞおちの痛み」を訴えて医療機関を訪れた事実を示す記録である。外来医療調査の集計では、本コードは他の腹痛関連コード(全般的な腹痛や限局性腹痛)と共通の受診理由モジュールにまとめられて集計されている。したがって、提示される第一診断の分布は心窩部痛単独の統計ではなく、腹痛全般の訴えを含む集団の分布である点に留意を要する。

また、カルテ上に同時に記録された受診理由は単なる併記の記述統計であり、併記がないことをもって陰性所見とみなすことはできない。

診療の場 第一診断の提示状況 読み方の留意点
診療所(プライマリケア) 提示基準を満たす診断なし 該当疾患の発生が稀であることを意味しない
診療所(専門科) 提示基準を満たす診断なし 受診者の偏りや標本数の影響で抑制される
救急外来 消化器・泌尿器などの急性疾患が並ぶ 重症例や急性期病態を含む救急受診集団の記録

診療先による診断分布の相違

救急外来の集計では、胃十二指腸炎、急性虫垂炎、胆石症、急性膵炎、尿路結石など多岐にわたる病態が第一診断として記録されている。一方、プライマリケアや専門科の診療所では提示基準を満たす第一診断カテゴリが存在しない。これは診療所において特定の疾患が全く存在しないことを示すのではなく、受診理由の記録基準や抽出基準による違いを反映している。

診療先ごとに記録される病態の構成が異なるのは、受診経路や母集団の違いによるものであり、ある診療先の統計を別の診療現場へ外挿することはできない。

消化器症状以外の可能性と背景因子

心窩部の痛みや不快感を主訴として受診した患者であっても、原因が腹部消化器疾患に限られるとは限らない。特に急性冠症候群では、胸痛を伴わずに受診する例が一定数あり、悪心・嘔吐が前景に出る例では院内死亡が高いと報告されている1。上腹部痛や食事と無関係な胸やけは、心筋虚血に伴う症状として指針に挙げられている2。

高齢者、女性、糖尿病患者などでは、胸痛以外の随伴症状が前景に出る場合があることが指摘されている2。主訴が「みぞおちの痛み」であっても、受診時の記録が消化器系疾患に限定されるとは限らない。

見逃し時の損失が大きい状態

頻度の高さではなく、見逃したときの損害と判断までの猶予で選んだ項目です。確率は併記しません。対応は、各ガイドラインが明示している内容だけを書いています。

  • 即時

    急性の胸痛(胸痛と同等の症状を含む)に、上腹部痛、食事と無関係な胸やけ、悪心・嘔吐、息切れなどが伴う(糖尿病、女性、高齢者でより多い)。胸痛を伴わずに受診する急性冠症候群もある

    急性冠症候群

    急性胸痛の患者では、受診から 10 分以内に 12 誘導心電図を記録し、ST 上昇型心筋梗塞の有無を判読する(COR 1・LOE C-LD)。この目安は急性胸痛を対象とした勧告であり、心窩部痛のすべてに当てはめるものではない。

  • 早期

    嚥下困難がある。または 55 歳以上で体重減少があり、上腹部痛・逆流・消化不良のいずれかがある

    食道癌胃癌

    食道癌(勧告 1.2.1)または胃癌(勧告 1.2.7)の疑いとして、suspected cancer pathway referral で紹介する。英国の癌疑い紹介に関する勧告であり、他地域の制度にそのまま当てはまらない。

  • 早期

    55 歳以上で、治療抵抗性の消化不良、または上腹部痛と低ヘモグロビンがある

    食道癌

    食道癌の評価として、非緊急の直接アクセス上部消化管内視鏡を考慮する(勧告 1.2.3)。緊急の紹介の対象となる 1.2.1 の所見とは区別する。

場ごとの事前分布

主な受診理由(RFV1)としてこの訴えが記録された受診の、第一診断(DIAG1)の分布です。診断は ICD-10-CM の 3 桁カテゴリで、受診時の記録です。95% 信頼区間を括弧に示します。順位は標本誤差で入れ替わりうるため、 点推定の大小だけで読まないでください。

NCHS RVC: 1545 Stomach and abdominal pain, cramps and spasms

この訴えは NCHS の受診理由分類では他の ICPC コード(D01・D06)と同じモジュールに 記録されます。区別せずに集計しているため、これらのコードの統計は重なっています。

pie showData title 救急外来:第一診断の内訳(%)
  "R10 Abdominal and pelvic pain" : 38.0
  "R11 Nausea and vomiting" : 3.3
  "K59 Other functional intestinal d…" : 2.9
  "K57 Diverticular disease of intes…" : 2.8
  "K52 Other and unspecified noninfe…" : 2.8
  "その他(上位以外・抑制を含む)" : 50.3

救急外来(非加重 5,571 件)。提示基準を満たした上位の診断だけを描き、残りは「その他」にまとめています。

受診時診断(ICD-10-CM 3 桁)診療所(プライマリケア)診療所(専門科)救急外来
R10Abdominal and pelvic pain
抑制抑制
38.0%35.7–40.4
R11Nausea and vomiting
—抑制
3.3%2.7–4.0
K59Other functional intestinal disorders
抑制抑制
2.9%2.2–3.6
K57Diverticular disease of intestine
抑制抑制
2.8%2.2–3.4
K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis
抑制—
2.8%2.2–3.4
N39Other disorders of urinary system
——
2.5%2.0–3.1
N20Calculus of kidney and ureter
——
2.5%1.9–3.1
K80Cholelithiasis
抑制—
2.4%1.8–3.1
K35Acute appendicitis
——
1.8%1.4–2.4
K29Gastritis and duodenitis
抑制—
1.8%1.4–2.3
この訴えが記録された受診数(非加重)67775,571
調査年2018・20192018・20192019・2020・2021・2022

Tier A: 米国 NCHS の公開マイクロデータ(NAMCS・NHAMCS ED)を複合標本設計で集計。受診単位。 「—」はその場の上位の診断に入っていないこと、「抑制」は NCHS の提示基準を満たさないため値を表示しないことを表します。 標準誤差・信頼区間は、匿名化のためにマスクされた公開版の設計変数による推定です。

併せて記録された受診理由

この訴えが(5 枠のどこかに)記録された受診で、同時に記録された受診理由の上位です。記録されていないことは、陰性だったことを意味しません。記録枠・患者の自発的な訴え・記録者の選択に左右されるため、問診の優先順位として読まないでください。

救急外来

  • RVC 1525Nausea23.4%(21.6–25.2)
    非加重 1,862 件
    • R10Abdominal and pelvic pain29.8%(27.0–32.8)
    • R11Nausea and vomiting9.0%(7.3–11.0)
    • K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis5.3%(3.9–6.9)
  • RVC 1530Vomiting23.2%(21.9–24.5)
    非加重 1,888 件
    • R10Abdominal and pelvic pain26.5%(23.6–29.6)
    • R11Nausea and vomiting15.4%(13.3–17.6)
    • K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis5.5%(4.1–7.1)
  • RVC 1595Diarrhea10.8%(9.8–11.9)
    非加重 895 件
    • R10Abdominal and pelvic pain28.1%(24.2–32.2)
    • K52Other and unspecified noninfective gastroenteritis and colitis12.7%(10.0–15.8)
    • R19Other symptoms and signs involving the digestive system and abdomen9.5%(7.0–12.6)
  • RVC 1055Pain, specified site not referable to a specific body system6.3%(5.4–7.2)
    非加重 479 件
    • R10Abdominal and pelvic pain30.0%(24.9–35.5)
    • N20Calculus of kidney and ureter13.2%(9.2–18.0)
    • N39Other disorders of urinary system4.2%(2.0–7.5)

この表が動く条件

上の分布を単独で一般化させないための節です。事前確率が大きく動く要因を挙げます。

診療の場(救急外来と一般診療所)
救急外来では急性虫垂炎や胆石症など多彩な急性病態が第一診断として記録されますが、診療所では提示基準を満たすカテゴリがなく、集団の性質が大きく異なります。
年齢層(高齢者など)
高齢者では胸痛以外の症状が前景に出ることや随伴症状の組み合わせが変わり、診断の分布や重篤な病態の割合に影響を与えます。
基礎疾患(糖尿病など)
糖尿病などの併存疾患がある場合、心筋虚血などにおいて典型的な疼痛を伴わず上腹部症状などで受診することがあります。
性別
女性では胸痛以外の主訴や複数の随伴症状を呈して受診することがあり、診断分布の背景に影響します。
受診理由モジュールの共有
心窩部痛単独ではなく腹痛全般のコードと合算されたモジュールで集計されているため、心窩部特異的な診断分布とは乖離する可能性があります。

他地域へ移すときの限界

  • 米国の救急外来および診療所における受診理由統計であり、受診行動や医療アクセスが異なる日本やハンガリーのプライマリケアへそのまま移植することはできません。
  • 診療所で提示基準を満たす診断がないことは、該当疾患が稀であることを意味せず、受診記録の集計特性に依存しています。
  • 腹痛関連コードと共通の集計モジュールに基づくため、心窩部痛単独の疾患分布として扱うことはできません。

参考文献・資料

  1. 1.Acute coronary syndromes without chest pain, an underdiagnosed and undertreated high-risk group: insights from the Global Registry of Acute Coronary Events(Chest・2004)抄録(PMID 15302732)で、GRACE登録の急性冠症候群20,881例のうち1,763例(8.4%)が胸痛なく受診し、その23.8%が当初急性冠症候群と認識されず、院内死亡が13%対4.3%と胸痛のある群より高かったこと、悪心・嘔吐を主訴とする受診は院内死亡の独立した上昇と関連した(OR 1.6)ことを確認した。全文は未取得。閲覧 2026-09-28
  2. 2.2021 AHA/ACC/ASE/CHEST/SAEM/SCCT/SCMR Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain(American Heart Association / American College of Cardiology・2021)本文で、12誘導心電図は医療施設への到着から10分以内に記録・判読すべきこと、息切れ・悪心や嘔吐・ふらつき・失神前状態や失神・漠然とした腹部症状などの随伴症状は糖尿病患者・女性・高齢者でより多いこと、心筋虚血に伴う症状(Table 3)として上腹部痛や食事と無関係の胸やけ・悪心や嘔吐が挙げられていること、女性は心窩部症状を含む随伴症状を3つ以上訴えることが男性より多いこと(55 歳以下の急性心筋梗塞の登録での記述)を確認した。閲覧 2026-09-28
  3. 3.Suspected cancer: recognition and referral(National Institute for Health and Care Excellence・2026)NICE 公式サイト(2026 年 4 月 15 日更新版)の勧告 1.2.1 の本文で、嚥下困難がある、または 55 歳以上で体重減少に加えて上腹部痛・逆流・消化不良のいずれかがあれば、食道癌の疑いとして suspected cancer pathway で紹介すること(胃癌も同じ条件で勧告 1.2.7)、勧告 1.2.3 で 55 歳以上の治療抵抗性の消化不良、または上腹部痛と低ヘモグロビンなどがあれば、非緊急の直接アクセス上部消化管内視鏡を考慮することを確認した。英国の癌疑い紹介の勧告であり、心窩部痛の鑑別を網羅するものではない。書誌 URL は既存の同一資料の登録(NCBI Bookshelf)に揃えた。本文の確認は NICE 公式サイトで行った。閲覧 2026-10-15