抑うつ感
筆者の題名:受診理由としての抑うつ感
🧠 受診理由としての抑うつ感は、診断名ではなく「気分の落ち込みを訴えて受診した」という記録である。 症状ノートの対応先が無い領域で、機序や分類は気分障害(うつ病・双極性障害)が担当する。
このノートが持つのは、疾患ノートに置けない次の 3 つに限る。
- 場ごとの分布: 診療所と救急外来は別の集団であり、混ぜない
- 併せて記録された受診理由: 記述統計であり、問診の優先順位ではない
- 見逃し時の損失が大きい状態と、その根拠になるガイドラインの範囲
この受診理由には、対応する症状ノートがない。関連する症状は自殺念慮と不安で、自殺と自傷については自殺と自傷行為に整理している。
⚠️ 自殺リスクの項目は、「リスクを層別して振り分ける」書き方をしない。NICE の自傷ガイドラインは、自傷をした人の評価について、リスク評価尺度や低・中・高の層別化で将来の自殺を予測することも、治療や退院の可否を決めることも、用いないこととしている。ここに書いたのは、尋ねること、差し迫った危険があるときの緊急の紹介、治療を保留しないことだけである。
⚠️ NCHS の受診理由「Depression」には、気分の落ち込みに限らず、悲嘆・苦悩・悲しみ・絶望感などの訴えも含まれる。診断の欄に抑うつ性障害以外のコードが並ぶことがあるのはこのためで、診断名の頻度としては読まない。
見逃し時の損失が大きい状態
頻度の高さではなく、見逃したときの損害と判断までの猶予で選んだ項目です。確率は併記しません。対応は、各ガイドラインが明示している内容だけを書いています。
- 即時
希死念慮・自殺の意図や計画がある、または自傷の危険がある(うつ病の人。抑うつを訴えて受診した人にも同様に当てはめる)
自殺・自傷のリスクNG222 は、うつ病の人には希死念慮と意図を直接尋ねることを勧めている。本人または他者への差し迫った大きな危険があれば、専門の精神保健サービスへ緊急に紹介する。自殺リスクがあることを理由に抑うつの治療を保留せず、抗うつ薬を処方する場合は過量服薬時の毒性を考慮して必要なら処方量を制限する。支援の強化や専門サービスへの紹介も検討する。
- 即時
自傷の直後(身体的な治療が必要な場合を含む)
自傷の反復・自殺のリスク可能な限り早い機会に、精神保健の専門職が心理社会的評価を行う。身体的治療が終わるまで評価を遅らせない。すべての心理社会的評価で、リスクの定式化を行う。NG225 は、リスク評価尺度や低・中・高の層別化で、将来の自殺や自傷の反復を予測したり、治療や退院の可否を決めたりしないとしている。
- 早期
精神病症状を伴う抑うつ
精神病症状を伴ううつ病専門の精神保健サービスへの紹介を行う(NICE の勧告の強さは offer)。治療にはリスク評価、ニーズの評価、多職種の協調したケア、急性の精神病症状が改善した後の心理療法へのアクセスを含める。
- 早期
抑うつの評価で、気分の高揚の既往の有無が確認されていない、または既往がある
双極性障害抑うつが双極性障害の一部かを見分けるために、気分高揚の既往を確認する。双極性障害の診療ガイドラインを参照する。
- 早期
抗うつ薬の開始・増量の後(治療の初期)
治療初期の焦燥・不安・希死念慮の増悪全員に、治療の初期に焦燥・不安・希死念慮が増えうることを伝え、症状の有無を確認し、すぐに助けを求められるようにする。顕著または遷延する焦燥があれば治療を見直す。18〜25 歳または自殺リスクが懸念される人では、開始・増量の 1 週間後に希死念慮について再評価し、以後は必要に応じて、開始した受診から遅くとも 4 週間以内に再評価する。
18〜25 歳または自殺リスクが懸念される人は、開始・増量の 1 週間後に再評価し、以後は遅くとも開始した受診から 4 週間以内根拠:Depression in adults 2022
場ごとの事前分布
主な受診理由(RFV1)としてこの訴えが記録された受診の、第一診断(DIAG1)の分布です。診断は ICD-10-CM の 3 桁カテゴリで、受診時の記録です。95% 信頼区間を括弧に示します。順位は標本誤差で入れ替わりうるため、 点推定の大小だけで読まないでください。
pie showData title 診療所(専門科):第一診断の内訳(%) "F60 Specific personality disorders" : 0.8 "F10 Alcohol related disorders" : 0.6 "F06 Other mental disorders due to…" : 0.5 "F98 Other behavioral and emotiona…" : 0.2 "F42 Obsessive-compulsive disorder" : 0.1 "その他(上位以外・抑制を含む)" : 97.9
診療所(専門科)(非加重 138 件)。提示基準を満たした上位の診断だけを描き、残りは「その他」にまとめています。
| 受診時診断(ICD-10-CM 3 桁) | 診療所(プライマリケア) | 診療所(専門科) | 救急外来 |
|---|---|---|---|
F32Depressive episode | 抑制 | 抑制 | 46.3%34.2–58.8 |
F39Unspecified mood [affective] disorder | — | — | 1.5%0.5–3.6 |
F60Specific personality disorders | — | 0.83%0.11–2.85 | — |
F10Alcohol related disorders | — | 0.56%0.01–3.30 | — |
F06Other mental disorders due to known physiological condition | — | 0.47%0.01–2.89 | — |
F98Other behavioral and emotional disorders with onset usually occurring in childhood and adolescence | — | 0.15%0.00–0.93 | — |
F42Obsessive-compulsive disorder | — | 0.14%0.00–0.85 | — |
| この訴えが記録された受診数(非加重) | 27 | 138 | 207 |
| 調査年 | 2018・2019 | 2018・2019 | 2019・2020・2021・2022 |
Tier A: 米国 NCHS の公開マイクロデータ(NAMCS・NHAMCS ED)を複合標本設計で集計。受診単位。 「—」はその場の上位の診断に入っていないこと、「抑制」は NCHS の提示基準を満たさないため値を表示しないことを表します。 標準誤差・信頼区間は、匿名化のためにマスクされた公開版の設計変数による推定です。
併せて記録された受診理由
この訴えが(5 枠のどこかに)記録された受診で、同時に記録された受診理由の上位です。記録されていないことは、陰性だったことを意味しません。記録枠・患者の自発的な訴え・記録者の選択に左右されるため、問診の優先順位として読まないでください。
診療所(プライマリケア)
- RVC 1100Anxiety and nervousness28.8%(19.5–39.6)非加重 44 件
診療所(専門科)
- RVC 1100Anxiety and nervousness46.8%(32.8–61.1)非加重 162 件
- F41Other anxiety disorders25.5%(13.7–40.7)
救急外来
- RVC 1100Anxiety and nervousness32.0%(26.9–37.3)非加重 284 件
- F41Other anxiety disorders13.6%(7.7–21.5)
- R45Symptoms and signs involving emotional state3.2%(1.3–6.3)
- RVC 1165Other symptoms or problems relating to psychological and mental disorders, NEC25.2%(19.5–31.6)非加重 274 件
- F32Depressive episode28.0%(20.5–36.4)
- R45Symptoms and signs involving emotional state18.9%(11.8–27.8)
- RVC 1545Stomach and abdominal pain, cramps and spasms8.5%(5.9–11.7)非加重 55 件
- RVC 2305Functional psychoses8.4%(5.5–12.3)非加重 82 件
この表が動く条件
上の分布を単独で一般化させないための節です。事前確率が大きく動く要因を挙げます。
- 年齢層
- 若年と高齢で、診断の構成も自殺リスクの評価の観点も変わります。この表は年齢で層別していません。
- 併せて記録された受診理由
- 不安・神経質、他の精神症状、腹痛などが同時に記録されると、受診時診断の分布が変わります。併存の表を参照してください。ただし記録されていないことは陰性を意味しません。
- 既往・服薬
- 気分高揚の既往、精神病症状、物質使用、身体疾患、服薬の有無で、抑うつの意味と対応が変わります(見逃し時の損失が大きい状態を参照)。
- 受診先の専門性
- 診療所の専門科の列と、プライマリケアの列では、集団が別です。診療所の分布は標本が少なく、抑制される行が多くなります。
- 調査年
- 救急外来のプール値には COVID-19 の流行期(2020〜2021 年)が含まれます。単年の値は示していません。
他地域へ移すときの限界
- 救急外来は診療所とは別の受診集団です。米国の救急外来の列を、日本・ハンガリーのプライマリケアの分布として読むことはできません。
- 診療所の列は標本が少なく、診断の分布が抑制されます。分布が出ていないことを「頻度が低い」とは読まないでください。
- 日本・ハンガリーについては、同じ集計の実測を確認していません。移植性は未検証です。
参考文献・資料
- 1.Depression in adults: treatment and management(National Institute for Health and Care Excellence・2022)NG222(2022 年 6 月公開)の本文を確認した。うつ病の人には希死念慮と意図を直接尋ねること(1.2.8)、本人または他者への差し迫った大きな危険がある場合は専門の精神保健サービスへ緊急に紹介すること(1.2.9)、自殺リスクがあるからといって抑うつの治療を保留しないこと(1.2.12)、気分高揚の既往は双極性障害の一部かを見分けるために確認すること(1.2.7)、精神病症状を伴ううつ病では専門の精神保健サービスへの紹介を行うこと(1.12.1、offer)、18〜25 歳または自殺リスクが懸念される人では、抗うつ薬の開始・増量の 1 週間後に(希死念慮について)再評価し、以後は必要に応じて、開始した受診から遅くとも 4 週間以内に再評価すること(1.4.22)。過量服薬時の毒性を考慮し、必要なら処方量を制限すること(1.2.12、1.4.23)を確認した。閲覧 2026-10-15
- 2.Self-harm: assessment, management and preventing recurrence(National Institute for Health and Care Excellence・2022)NG225(2022 年 9 月公開。対象は自傷をした人)の本文を確認した。自傷の後は可能な限り早い機会に精神保健の専門職が心理社会的評価を行い、身体的治療が終わるまで遅らせないこと(1.5.1、1.5.2)、リスク評価尺度や低・中・高のリスク層別化で将来の自殺や自傷の反復を予測したり、治療や退院の可否を決めたりしないこと(1.6.1〜1.6.4)、すべての心理社会的評価でリスクの定式化を行うこと(1.6.6)を確認した。閲覧 2026-10-15